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秋山 基夫 展|詩からの自由/詩への自由|天プラ・セレクションVol.83

更新日:4月17日




 詩は現在印刷物として流通し、詩のパブリックな性格を拡大していますが、古くは手書き文字で生産され消費され、これは詩のプライベイトな在り方に即していたとも考えられます。印刷物であろうと手書き文書であろうと一篇の詩は一篇の詩に変わりない、という考えは印刷物として詩が流通する時代になって出てきたものです。手書き文字の詩はその紙しかないという制約のもとに読者に手渡されます。今回の展示ではそういう詩の在り方が疑似的に体験できるかもしれません。


 詩は文字によって生産消費されるだけでなく、文字のない時代にも人は詩を大切にしていました。世界には何千という言語がありますが文字をもたないものがほとんどです。しかし声による詩をもたない言語はないでしょう。自作詩の朗読は詩人が詩を自分の声で近くにいる他の人々と共有しようとする企てです。


 共同作業は人の歴史とともに古いのですが、表現活動におけるそれも例外ではありません。しかし近代以降芸術は個人に根拠をおくものになり、その意味で共同制作はむずかしい作業になりました。今回優れた才能たちと乱暴にも冒険を試みました。


 詩人なんてどこにいるのでしょう。服を着たり帽子をかぶったりしているのでしょうか。詩人の本棚にはどんな本が並んでいるのでしょう。しかし詩は詩人とともにあるとも言えますが、まったくそんな人はいないのかもしれません。いるのはあなただけです。


秋山 基夫



Exhibition Review

 詩人秋山基夫、85歳。自作詩の朗読を重視するオーラル派の提唱者であり、全国各地で朗読会を開催、谷川俊太郎らとも活動してきた。岡山県詩壇の重鎮ではあるが不思議にも地元岡山ではその活動はよくは知られていなかった。永瀬清子を朗読の世界に誘ったのも秋山だと聞けば、いったい何者か、と興味をかきたてられる人は多いのでないか。岡山では初の本格的個展「詩からの自由/詩への自由」でようやく秋山の融通無碍な世界の輪郭に触れることができたといえよう。


 会場ではまず秋山を写した大きな写真が目に入る。壁には写真で身につけていた上着や帽子がかかる。会場自体が詩人のインナースペースという設えだ。


 「人は手からさよならします」「恋の後には生活がくる」…天井からつり下げられた20mを超える紙にさまざまな字体で印刷された言葉の数々は、まるで詩人の口から次々とはきだされていくさまのようだ。裏へ回れば「ひまな皆さん!」の大きな文字が。朗読を始めた1970年代当時のライブ音源「ほんやら洞の詩人たち」を聴けるコーナーもあり、選挙演説やニュース、卒業式の祝辞などが止まることなく繰り出される様子は、先の作品と呼応しているのが分かる。


 かと思えば、極小文字で印刷した作品にルーペを置くと「ポックリか ねたきりか」「財産はありません」。詩人の個展、と身構えて来た人は、人なつこい秋山ワールドへ自然と引き込まれるのだ。


 それは身近な言葉を使いながら、神話や昔話、歴史、方言など自在に取り込み、ユーモアや風刺、機知が生み出すイメージ喚起力あふれる世界。「詩を身近に」と「詩集」の形に止まらず、朗読会やタブロイド版個人誌の発行など多彩な形で発信してきた足跡も展示でたどる。題名の「詩からの自由」の意味はこれである。


 今回秋山は、版画家髙原洋一や今展を前に急逝した前衛書家曽我英丘とのコラボの旧作は別として、自作の旧作は新たに手書きで仕上げた作品を並べた。竹久夢二をモチーフにした1000行もの長編詩を手書きして長さ12mもの巻子にした圧巻の新作からも、言葉にエネルギーを吹き込んで人々に届けたいという並々ならぬ思いが伝わる。


 それを、若いアーティストたちがどう受け取るかという試みがコラボ企画「詩への自由」だ。秋山からの注文は2点の制作。1点は古戦場に想を得た四行詩「覚醒」を作品に使うこと、もう1点は秋山の詩から自由に選んで創作すること。書家蟠龍、テキスタイルの松島千紗、油絵の島村敏明、デザインの安藤一生、版画の岡村勇佑という異ジャンルの5人が苦吟しながら、ポスターから屏風まで多彩な作品を生み出した。秋山の思い通り回顧展に止まらず世代間のコミュニケーションを図ったのは秋山の面目躍如といえるのではないか。


天プラ・セレクション推薦委員/山陽新聞編集局次長 江見 肇


岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.83 秋山 基夫展 詩からの自由/詩への自由

[会期]2018年4月24日〜29日 [入場無料]

[時間]9時30分〜17時30分(最終日は16時まで)

[会場]岡山県天神山文化プラザ・第3・4展示室


秋山基夫展 コラボレーション 作品展示

岡山の5人のアーティストたちが秋山基夫の詩とコラボレーションした作品を展示しました。ひとり2作品を制作し、1作品は四行詩「覚醒」を使うことを共通テーマに、もう1作品は、それぞれが選んだ秋山基夫の詩 をテーマに制作されました。


秋山基夫展 コラボレーション 共通テーマ四行詩「覚醒」


目覚めよ 死者の

面々 重き甲冑を脱ぎ

戸を開き 足取りも軽く

森の奥へと 世の姿を消したまえ 


詩集『薔薇』より


秋山基夫展 コラボレーション 参加作家

松島 千紗 (テキスタイル)

島村 敏明(絵画)

岡村 勇佑(版画)

蟠龍(書)

安藤 一生 (デザイン)


秋山基夫展 朗読ライブ

4月28日(土) 14時〜

秋山 基夫(朗読)

小幡 亨(パーカッション)


今回で4回目の開催となったふたりのコラボレーション。「自分の目でじかに見ることができ、自分の耳でじかに聞くことができ、自分の声がそのままだれかの耳にとどく、そういうナニゴトか*」を体感する場になりました。

*秋山基夫『詩の朗読についての2、3のコメント』より


秋山 基夫 Moto'o Akiyama

1932 神戸市生まれ


現在 岡山市在住

日本現代詩人会、岡山県詩人協会、現代詩研究会・四土の会、詩誌「どうるかまら」

日本文芸家協会等会員


詩集

『旅のオーオー』(思潮社・1965年)、『カタログ・現物』(かわら版)、『夢ふたたび』(手帖社)、『窓』(れんが書房新社)、『桜の枝に』(ブロス)、『十三人』『家庭生活』(思潮社)、『キリンの立ち方』(山陽新聞社)、『岡山詩集』(和光出版)、『秋山基夫詩集』(思潮社・現代詩文庫)、『薔薇』(思潮社)、『二十八星宿』(和光出版)、『ひな』(ペーパーバック)、『神様と夕焼け』(和光出版)、『月光浮遊抄』(思潮社)など26冊


評論集等

『詩行論』『引用詩論』『文学史の人々』(思潮社)、『岡山の詩100年』(和光出版)など


レコード・CD

「ほんやら洞の詩人たち」(レコード/1975年URL-1041、CD/2003年復刻avex io)

「ストロング」「オカルト」(CD/大朗読事務局)など


主な賞歴

第1回 中四国詩人賞、第16回 富田砕花賞、第64回 山陽新聞賞 (文化功労)

第3回 岡山芸術文化賞グランプリ、第70回 岡山県文化賞 など


出品一覧

タイトル|素材/技法/形状|サイズ(cm)|出典・備考|制作年 夢ふたたび|和紙、インク/巻子|23.6×1200|『夢ふたたび』|2018

銅貨磨き|400字詰め原稿用紙、インク|24.2×33.2・3枚|『引用詩論』|2018

覚醒/無題|200字詰め原稿用紙、インク|27.3×19・2枚|『薔薇』、『ルーティン』|2018

ともだち/この世|200字詰め原稿用紙、インク|27.3×19・2枚|『桜の枝に』|2018

routine8|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『ルーティン』|2018

少年 高原洋一の版画に|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『神様と夕焼け』|2018

四行詩三篇(一本の線/詩人/デザイン)|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『桜の枝に』|2018

四行詩三篇(ともだち/この世/雪)|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『桜の枝に』|2018

四行詩三篇(雪/恋/生活)|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『桜の枝に』|2018

(レンコンの詩/ハスの詩)|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『岡山詩集』|2018

宮本武蔵|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『岡山詩集』|2018

六条院の梅|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『岡山詩集』|2018

備前焼二題(変転/水になじむ器)|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『岡山詩集』|2018

|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『岡山詩集』|2018

くれなゐにほふ|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『岡山詩集』|2018

春闌く|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『岡山詩集』|2018

ひとつぶの涙|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『神様と夕焼け』|2018

相生橋|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『神様と夕焼け』|2018

河童池の昼と夜|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『月光浮遊抄』|2018

和邇浦の夏そして秋|400字詰め原稿用紙、インク|26.4×37.4|『月光浮遊抄』|2018

秋山基夫フレーズ集|色紙、墨|12.6×12.1・12枚|-|2018

秋山基夫の著作物と活字および愛用品によるインスタレーション|紙、活字、書籍、ポスター、新聞、雑誌、置物|サイズ可変|-|2018

大気マンダラ|和紙、墨|20×20|個人蔵|2016

詩集『十二し』(秋山基夫展版)|紙/オフセット印刷|25.7×18.2・4頁|-|2018


 

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本記事は、平成30年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.83 秋山基夫展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。


発行:岡山県天神山文化プラザ

発行日:平成30年9月23日

印刷:株式会社 三浦印刷所

編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]

デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]

撮影:加賀雅俊[べあもん]

照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]

 

<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>


平成30年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集

岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2018年4月24日〜2019年2月3日の期間に開催された6人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。


<目次>

  • 秋山 基夫 展|詩からの自由/詩への自由|天プラ・セレクションVol.83

  • 長原 啓 展|luxury2.0|天プラ・セレクションVol.84

  • 山下 真未 展|動・遊・楽アニメ? 〜Do You Like Anime?〜|天プラ・セレクションVol.85

  • 福井 一尊 展|在るものと 見えるものと|天プラ・セレクションVol.86

  • 久山 淑夫 展|事実が有って存在させない真実・被爆汚染列島|天プラ・セレクションVol.87

  • 加藤 萌 漆芸展|黒に潜む|天プラ・セレクションVol.88


カラー56ページ

税込1,000円


※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)


お問い合せ

〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ

TEL 086-226-5005

FAX 086-226-5008

メール tenplaza@o-bunren.jp

受付時間 9:00~18:00

休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)

 

「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。

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