大橋 裕子 展|まだ見ぬものたち|天プラ・セレクションVol.93 

更新日:7月6日



「見えないけれど確かに存在するもの」


ずっと「しわ」を見つめてきた。あたりを見まわすとひとつとして同じかたちがないことに気づく。

一番身近な皮膚、紙、布、植物などはもちろんのこと、俯瞰的な目で眺めると、小川、みち、うっそうとした森、山ひだなども、地球が生みだす「しわ」と言える。そこには無作為の美しさがあり、時間の蓄積がある。


私は、「しわ」をとおして時間を見ている。私たちが見ていると認識できるものは、表面に出ているものだけである。そこに至るまでの時間に思いをめぐらすと、この世のすべてのこと、森羅万象の時のながれに気づき、そして自分たちも命のつながりで生かされていることにも気づく。


見えないけれど確かに存在するものがある。私は自身の制作と対峙しながら、見えないけれど確かに存在する「まだ見ぬものたち」を、今後も探し続けていきたい。


大橋 裕子






Exhibition Review

絵を描く人にも様々なタイプがある。

生み出すものがそのまま溢れ出る個性そのものというのは、憧れるスタイルではあるがなかなか難しい。一方、個性的にありたい、あらねばと思って描く絵が単なるポーズとはならないように、自身を自ずと導く仕掛け、作法をあえて加える者もいる。素材の選択に伴って不可避の物理法則や、もしくは容易に自由にならないものを制作プロセスの中に持ち込むのである。ある種の抵抗を媒介とすることで、より確かな自己を発見する手法と言ってもよいだろう。こうした行為を作為的と距離を置く場合もあるが、絵を描く行為自体が作為的かどうかと問われた時、逆に作為的では無いとはいったいどういうことなのかという問が湧いてくる。ある意味で絵描きがその問から逃れるための手法として、それはある。


「彼は、よい顔になった。」などと聞くことがある。「よい顔」とは、自らのありたい姿・ビジョンに他ならない。刻まれた顔の「しわ」は、その判断において重要な要素である。

笑うこと、泣くこと、怒ること…生きることの積み重ねによって刻まれた「しわ」である。「しわ」は、過ぎた時の痕跡であり、心の記録でもあるのだ。「もみ紙」に見られる無数の「しわ」は、丈夫な和紙を文字通り揉むことによって作りだされる。そのもみ紙の技法によって現れた「しわ」を拾い、それを手掛かりに筆を重ねて絵画を生み出していく作業は、さながら人生のようにも思える。


絵を描く行為は、これまで過ごしてきた時間や自らを取り巻く世界と無関係ではいられない。大橋の作画手法は、それらと自身の関係の結び方のように思える。無数の「しわ」の中から、感じ取り、選び出した「しわ」を手がかりに筆を入れ、「まだ見ぬ何か」に近づける作業を延々と行っている。ひたむきな作業である。はたしてゴールは見えているのか、まだ見ぬ世界を探している。

描かれた結果としての絵画は、その時点での作者自身であり、作者が刻んだ新たな「しわ」に他ならない。大橋にとって描く行為は、自らが思い描く「良い顔」を作り出す作業にも思える。


岡山県天神山プラザ企画委員/美術家 森山 知己


岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.93 大橋裕子展 まだ見ぬものたち

[会期]2020年9月1日〜9月6日 [入場無料]

[時間]9時30分〜18時(最終日は16時まで)

[会場]岡山県天神山文化プラザ・第3・4展示室


大橋 裕子 Yuko Ohashi

1961 岡山県生まれ

1984 ノートルダム清心女子大学 家政学部 児童学科児童教育学コース(絵画コース専攻)卒業

1984 岡山市内の企業に就職、絵画制作活動を一時休止

1999 絵画制作活動を再開

2016 倉敷芸術科学大学大学院 芸術研究科(通信制)美術専攻 油画系 修了

2019 倉敷市の公民館での絵画講師


現在、倉敷芸術科学大学大学院 芸術研究科 芸術制作表現専攻 博士後期課程 在籍中


展覧会

2010 グループ展 赫展(倉敷市立美術館) [以後毎年]

2015 倉敷市美術展覧会(倉敷市立美術館) [以後毎年]

2016 第80回 新制作展(東京国立新美術館)

2019 第44回 全国大学版画展(町田市立国際版画美術館/東京)

2020 天プラ・セレクションvol.93 大橋裕子展「まだ見ぬものたち」(岡山県天神山文化プラザ)


主な賞歴

2004 第55回 岡山県美術展覧会 県展賞 [以後同賞受賞:2005、2007、2009、2010]

2012 第63回 岡山県美術展覧会 山陽新聞社賞

2014 第67回 関西新制作展 新作家賞 [同賞受賞:2019]

2015 第66回 岡山県美術展覧会 県展特別賞


出品一覧

タイトル|素材/形状|サイズ(cm)|制作年 見えてきたかたち|麻布(左2枚)、カンヴァス(右)/油彩|各162×130.3・3枚組|2020


記憶|トレーシングペーパー、鉛筆、木炭、墨、胡粉/ドローイング|220×1100・2層|2020


囁き 1・2・3|木製パネル、鳥の子、薄美濃紙もみ紙(胡粉、墨)、トレーシングペーパー、銀箔、鉛筆/ドローイング|各91×72.7・3点|2020


澄む|木製パネル、鳥の子、薄美濃紙もみ紙(胡粉、墨)、水干絵具、岩絵具、染料、胡粉|180×270|2020


|麻布/油彩|116.7×91|2020


まだ見ぬものたち-予感Ⅰ・Ⅱ|カンヴァス/油彩|各162×130.3・2点|2019


|カンヴァス/油彩|116.7×116.7|2019


透けるかたち|麻布/油彩|53×45.5|2019


かたちの向こう|麻布/油彩|53×45.5|2018


南国の実|トレーシングペーパー、鉛筆/ドローイング|46.5×34|2019


南国の風-ドローイング|トレーシングペーパー、鉛筆、木炭/ドローイング|67×61.5|2019


南国の風-1・2|紙/銅版画、多版多色刷|各63×43・2点|2019


夏-1・2・3|紙/銅版画、多版多色刷|各63×43・3点|2020


the other side|紙、銀箔/銅版画、多版多色刷|10×10|2020


flow|紙/銅版画、1版多色刷|7×13|2020


追憶|紙/銅版画、多版多色刷|6.6×13|2020


line|紙/銅版画、多版多色刷|6.6×13|2020


Gerbera|紙/銅版画、1版1色刷|15×18|2020


YUZU・YUZU-2・3|紙/銅版画、多版多色刷|各17×31.5・3点|2019


nuts-yellow|紙/銅版画、多版多色刷|13×10|2019


Tree|紙/銅版画、1版多色刷|6×4.6|2019


 

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本記事は、2020年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.93 大橋裕子展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。


発行:岡山県天神山文化プラザ

発行日:2020年10月31日

印刷:株式会社 三浦印刷所

編集:加藤淳子[岡山県天神山文化プラザ]

デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]

撮影:加賀雅俊[べあもん]

 

<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>


令和元年度・令和2年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集

岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2019年5月28日〜2021年2月28日の期間に開催された6人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、2年間の記録集として発行したものです。


<目次>

  • 二乃本 曙暢 展|Vibration ―鼓動―|天プラ・セレクションVol.89

  • 岡本 汐加 展|―Process: play with the site―|天プラ・セレクションVol.90

  • 原田 よもぎ 展|青い国の話|天プラ・セレクションVol.91

  • 諸川 もろみ 展|ポーコ・ポコ・コーラとポテトイッチプ|天プラ・セレクションVol.92

  • 大橋 裕子 展|まだ見ぬものたち|天プラ・セレクションVol.93 

  • 山口 深里 展|浮島|天プラ・セレクションVol.94


カラー52ページ

税込1,000円


※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)


お問い合せ

〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ

TEL 086-226-5005

FAX 086-226-5008

メール tenplaza@o-bunren.jp

受付時間 9:00~18:00

休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)

 

「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。