top of page

中本研之 陶展|派生|天プラ・セレクションVol.81

更新日:4月17日



須恵器から数えおよそ千年の歴史を有する備前焼。

地を掘り起こし、カタチ造り、薪をくべ焔で「土」を「陶」へと変容させる。

このシンプルな焼き物にいったいどれだけの先人たちが携わり、伝え受け継がれてきたのだろう。

僕が岡山の地で巡り合ったのは、この素朴で繊細でありながらも豪快な焼き物だった。

紡ぎ繋がれた歴史の中で内なるものを手繰り寄せカタチがまたカタチを派生させ繰り返し創り、産まれる。

創造への想いは募るばかり。

土をねじ伏せることなく、成るようにそっと手を添える。

悠久の時の中で自身も派生した一粒のカケラで在りたい。


中本研之



Exhibition Review

風雨の侵食が作り出す奇岩、鍾乳洞の中で堆積した石筍...「griffon」を始めて見たとき、自然が永い時をかけて作り上げる美しく不思議なかたちを連想した。捻れ、ちぎれそうになりながらも上昇する様からは、厳しい環境の中で萌芽する生命の粘り強さも感じさせる。


中本は日本伝統工芸展など公募展で活躍する工芸作家である。伊勢﨑紳から受け継いだ古典技法をベースとした大皿のシリーズは中本の代表作であり、一定の評価を得ている。しかし本展では2012年頃から制作を始めたオブジェ「griffon」シリーズがメインに据えられた。大皿が約千年にわたる備前焼の歴史から受け取った成果なら、「griffon」はそこから始まる新たな挑戦である。


隅々まで作家の意志でコントロールされた造形や、かたちに合わせた様々な焼き色に、高い技が駆使されていることが伺える。そして作品を持ち上げた時の軽さに驚かされる。中が空洞であることは焼物の特性だが、思った以上に薄く作られているのだ。このシリーズは共通して下半分が壺の形をしていて、ロクロを使わず紐作りで形成される。口(穴)が開けられていないものが殆どで、用途を持たない鑑賞物として独立した存在を主張している。そこに作者の自信と覚悟が伺える。「工芸作品は使う人がいてこそ完成するものなので自分の主張は50%くらいに抑えています。でも、オブジェは100%を自分の意図で作り込める。」と中本は言う。


何れの作品にしても、自然がモチーフとなっていることは明らかだ。伝統工芸の根底には自然と共生してきた日本人ならではの精神がある。今後、中本が自然との関わりをどのように深めるかによって、作品はさらに進化してゆくだろう。そのための準備と情熱は十分に蓄えている人だと思う。


天プラ・セレクション推薦委員/岡山県天神山文化プラザ学芸員 福田 淳子


岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.81 中本研之 陶展 派生

[会期]2018年1月30日〜2月4日 [入場無料]

[時間]10時〜18時(最終日は16時まで)

[会場]岡山県天神山文化プラザ・第4展示室


中本 研之 Kenshi Nakamoto

1975 広島県生まれ

1999 倉敷芸術科学大学 芸術学部 工芸学科 卒業


現在 岡山県備前市在住


主な活動

2011 KAKE COLLECTION pulas (加計美術館 / 倉敷市)

2013 高橋秀監修「中本研之陶展 -かたちあるものへ」(スペース・ヴェーネレ/岡山市)

2013 備前陶心会展受賞者選抜企画展「octet」(ルネスホール/岡山市)[以後’14〜’16]

2013 片上古道アート散步 Vol.1(備前市)[以後 Vol.3、Vol.4、Vol.5]

2014 第8回 岡山県新進美術家育成「I氏賞選考作品展」(岡山県天神山文化プラザ)

2014 QUALITY OKAYAMA JAPAN(シドニー・メルボルン)

2015 講談社モーニング『へうげもの』スピンオフイベント「備中國足守大茶湯」(常光庵/岡山市)

2016 陶芸展 -教え子たち-(加計美術館/倉敷市)、Discovery BIZEN(備前市)

2017 nanacafe 2017 autumn「Allegro con brio〜次代へ〜」(常光庵/岡山市)

2018 天プラ・セレクション vol.81「中本研之展 派生」(岡山県天神山文化プラザ)


主な賞歴

2009 第60回 岡山県美術展覧会展賞[以後 ’10県展賞、’11、’13奨励賞]

2009 第56回 日本伝統工芸展 入選

2009 おおたき北海道陶芸展 北海道知事賞・大賞[以後 ’10テレビ北海道社賞]

2010 国民文化祭おかやま2010美術展 岡山県実行委員会会長賞

2011 国民文化祭京都2011美術展「工芸」奨励賞

2012 日本伝統工芸中国支部展 広島県知事賞


出品一覧

タイトル|素材/技法|サイズ(cm)|制作年 griffon|備前土/窖窯焼成|56×35×33|2015

griffon|備前土/窖窯焼成|62×29×26|2012

griffon|備前土/窖窯焼成|63×32×30|2016

griffon|備前土/窖窯焼成|77×36×34|2018

griffon|備前土/窖窯焼成|65×40×38|2014

griffon|備前土/窖窯焼成|72×30×30|2017

griffon|備前土/窖窯焼成|65×43×38|2013

griffon|備前土/窖窯焼成|74×41×36|2013

fossil|備前土/窖窯焼成|サイズ可変|2015

備前三日月紋長方皿|備前土/窖窯焼成|14×59×38|2012

備前象嵌叩長方皿|備前土/窖窯焼成|11×74×34|2012

備前象嵌叩長方皿|備前土/窖窯焼成|14×65×14|2012


 

サイト訪問者からの連絡受付

事務局経由で受け付ける




 

本記事は、平成29年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.81 中本研之 陶展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。


発行:岡山県天神山文化プラザ

発行日:平成30年5月31日

印刷:株式会社 三浦印刷所

編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]

デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]

撮影:加賀雅俊[べあもん]

照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]

 

<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>


平成29年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集

岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2017年4月25日〜2018年4月1日の期間に開催された6人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。


<目次>

  • 髙原洋一 展|反復:生成|天プラ・セレクションVol.77

  • 杉山恭平展|空想の世界|天プラ・セレクションVol.78

  • 金孝妍展|線ヲ思フ|天プラ・セレクションVol.79

  • 田丸稔展|叙事詩の男、こがねいろの月|天プラ・セレクションVol.80

  • 中本研之 陶展|派生|天プラ・セレクションVol.81

  • 千 足 展|オノマトペ|天プラ・セレクションVol.82


カラー52ページ

税込1,000円


※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)


お問い合せ

〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ

TEL 086-226-5005

FAX 086-226-5008

メール tenplaza@o-bunren.jp

受付時間 9:00~18:00

休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)

 

「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。

Comments