絵を描くのがただ好きだった。
ある時、ふと、線を一本描くことに虚飾な感じがし、描けなくなった。
ここから自分への問いは始まる。
なぜ、絵を描くのか。
絵画とは。アートとは。
次々とつながる問いは作品を生む種となる。
自分への問いは、自分の行為に対する問いに繋がる。
思考行為、制作行為。
人は空気がないと生きていけない。
目に見えないが、空気は絶えず体の中を出入りし続ける。
常に体と触れ合っている。生きているのか、生かされているのか。
作為は作者の意図だとする場合、無作為は作者の意図がなく働く自然の力だとすると、
作為と無作為は常に影響しあって共存せざるをえない。
作為と無作為の相互作用の痕跡がここに現れる。
‘線’を思うと‘線’はないことに気付く。
‘思う’ことから次につながる。
この展示場の空間と私の‘思う’は、
共に空気と触れ合っている。
ここに立っている、
あなたも一緒に。
金孝妍
Exhibition Review
線は、さまざまな影響を受ながら成長し、そしてその瞬間を、その時を刻む痕跡となる。水を媒介に描くからこそ、それは重力を反映する。画面を立てれば流れ、またその量が多ければ溢れ、広がる。描くおりの温度も、また湿度も媒介とする水の持つ基本的な性質を反映する。プリミティブな画材とその使用は、古の人の営みのごとく自然との関わりの中で紡がれ形作られる。それ故に現れる「何か」は、作者の脳の中のみで完結することはない。それは生まれる瞬間に新たな姿として結実し、そして次なる何かに再び影響を与える存在となる。
孝妍は、「描く」ということを問い直す。
「生み出す」ということを問い直す。
「生きる」ということを問い直す。
生み出すのではなく現れる「何か」は、自らの行為とともに関わる様々なものからの影響を受けた結果である。物理法則まで含めたその影響を与える全ての存在を「自然」として捉えようと試みるなら、起点となる描く自分自身もその一部にちがいない。
展示室外部の壁面に飾られた作品では、前川國男の建築デザインとなる空調ダクトの形に沿って、画面に穴を開けた。この空間での展示の機会が孝妍のこれからにどんな響き、影響を与えるのか。素材や技法への興味が単にそれのみにとどまらず、また出会うそれぞれの機会を自らを形作る「自然」への手がかりとして、新たな「何か」にこれからも出会うことと思う。
天神山文化プラザ展示企画委員/倉敷芸術科学大学教授 森山 知己
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.79 金孝妍展 線ヲ思フ
[会期]2017年11月7日〜12日 [入場無料]
[時間]9時30分〜18時(最終日は16時まで)
[会場]岡山県天神山文化プラザ・第3展示室
金孝妍 Hyoyun Kim
1980 韓国済州島生まれ
2001 École Nationale Supérieure des Beaux-Arts de Paris, France 交換留学
2003 弘益大学校美術大学 絵画科 卒業(韓国・ソウル)
2005 弘益大学校一般大学院 絵画科修士 修了(韓国・ソウル)
現在 岡山市在住 倉敷芸術科学大学大学院 芸術研究科 芸術制作表現専攻博士課程 在学
個展
2016 「満開の線」(加計美術館 / 倉敷市)
2016 第22回現代美術日韓展企画「作為の矛盾」(ギャラリーくぼた /東京)
2017 天プラ・セレクションvol.79「金 孝研展 線ヲ思フ」(岡山県天神山文化プラザ)
グループ展
2017 「Seoul & Tokyo & Mokpo展」(G&J Gallery, KEPCO Art Center /韓国・ソウル)
2017 「ワンワールド・エキジビション」第73回現展企画招待展示(国立新美術館/東京)
2017 「ファインアート・ユニバーシアードU-35展」(茨城県つくば美術館/茨城)
主な賞歴
2016 第2回 石本正日本画大賞展 奨励賞受賞
2017 岡山県新進美術家育成I氏賞 奨励賞
金 孝妍 Instagram
出品一覧
タイトル|素材/技法|サイズ(cm)|制作年 水の足跡 ―○□△―|高知麻紙、墨|181.8×227.3|2016
水の足跡 ―私の外面、前―|高知麻紙、墨|130×194|2016
水の足跡 ―私の外面、後―|高知麻紙、墨|130×194|2016
水の足跡 ―顔―|高知麻紙、岩絵具|73×103.2|2017
水の足跡 ―11・7・1―|高知麻紙、墨|450×545|2017
水の足跡 ―○□△ ♯S2―|和紙、銀箔/硫化|162×194|2017
水の足跡 ―直六面体 ♯S1―|和紙、銀箔 / 硫化|116.7×116.7|2017
満開の線 ―層 ♯1〜♯6―|絹、岩絵具|各:195×140|2017
満開の線 ―層の跡―|絹、岩絵具|194×162|2017
満開の線 ―円―|高知麻紙、岩絵具、墨|116.7×116.7|2017
満開の線 ―線はやがて空間となる♯1―|高知麻紙、岩絵具、墨|160×240|2017
満開の線 ―線はやがて空間となる♯2―|高知麻紙、岩絵具、墨|162.1×130.3|2017
満開の線 ―線はやがて空間となる♯3/♯4―|高知麻紙、岩絵具|各:225×180|2017
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本記事は、平成29年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.79 金孝妍展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行:岡山県天神山文化プラザ
発行日:平成30年1月31日
印刷:株式会社 三浦印刷所
編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]
デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]
撮影:加賀雅俊[べあもん]
照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
平成29年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2017年4月25日〜2018年4月1日の期間に開催された6人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。
<目次>
髙原洋一 展|反復:生成|天プラ・セレクションVol.77
杉山恭平展|空想の世界|天プラ・セレクションVol.78
金孝妍展|線ヲ思フ|天プラ・セレクションVol.79
田丸稔展|叙事詩の男、こがねいろの月|天プラ・セレクションVol.80
中本研之 陶展|派生|天プラ・セレクションVol.81
千 足 展|オノマトペ|天プラ・セレクションVol.82
カラー52ページ
税込1,000円
※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。
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