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藤井 龍 展|For( Your/His/Her/My)Eyes Only|天プラ・セレクションVol.73

更新日:3 日前



名づけられなかったことについて

たわいもない会話、それをパフォーマンスだと名づける。ほとんど反射的におこなっているようなやりとりの内容や、やりとり自体が意味ありげなものに見えてくる。

自宅で忘れられたように飾られている絵画。日々の生活の中でほとんど鑑賞されなくなり、日常の背景となっている。それらは「絵画」と名づけられなくなった絵画だ。

名づけることは気づくことであり、意識することである。特に抽象的な事象や感覚は、名づけることによって、他者と共有することが容易になる。展覧会という場は、ある意味で分かりやすい例かもしれない。そこでおこっている状況や示されている物事が、「作品」だと名付けられ、観客(=他者)はそれを見る。


一方で、名づけるということは、名づけられていないものの存在を同時に喚起させる。名づけないということは、名づけるという意識的な行為とは異なり、無意識的でなければならない。少し矛盾もあるが、つまりは名づけられていないことにさえ、気づいていない状態だ。

名づけられなかったことは、見ることさえ難しく、他者とも共有し難いものだ。しかし、名づけられなかったことにこそ、他者それぞれの異なる視点の多様さを想像できる。自分という名づけられた場所から。


藤井 龍




問答 自分と他者 反対の合一 Exhibition Review

藤井龍の作品をまとまった形で初めて目にすることができた。まず目に入ったのが規則正しく展示された無数の写真群「PrivateCollection」。約60人の個人宅に飾られている「美術作品として見られていない状態の作品」を撮影した写真。次に、会場中央部で行われていた、数名の役者に「藤井龍」を演じてもらうという即興のパフォーマンス「selves」。

一見して無関係にも見える二つの作品は、同時に見ることで、展覧会のコンセプトを二次元から三次元へと立体的に浮かび上がらせていた。


「(普段の生活の中で)相手によって無意識に自分を演じ分けている。複数の他者は複数の自分に出会うための手段でもある。」と藤井は語るように、複数の藤井自身が出会うパフォーマンスの擬似的状況は、自分/他者という認識を融解させ、自分/自分という認識を露わにしている。それは、藤井本人だけでなく、役者や鑑賞者一人一人の中の「自分」自身との関係性を問いかけ直しているのではないか。その意味で、この展覧会は多数の「他者」ではなく、無数の「自分」で構成されていた。そう考えると、見知らぬ誰かの家の風景でさえも、主体性を伴って見え始める。

しかし同時に、彼が「自分さえも他者のように感じる」というように、自分を他者のように捉えているもう一人の自分が自分を他者と認識し始め、…。この展覧会について書くのは、延々と続く自分自身との問答のようである。ふと、根源的なアートとしての問題だけではなく、根底に「人とは何か?」を問いかけていかなくてはならない「教育」の問題が現れ、両者は緩やかにシンクロしてきた。アートも教育も共に根源的な他者(=自分)への問いかけでもあるから。


奈義町現代美術館館長 岸本 和明


岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.73 藤井 龍 展 For(Your/His/Her/My)Eyes Only

[会期]2017年8月9日〜14日 [入場無料]

[時間]9時〜18時

[会場]岡山県天神山文化プラザ・第2展示室


藤井 龍 Ryo Fujii

1987 岡山県生まれ

2011 Royal Academy Schools, London 交換留学

2013 東京藝術大学 大学院 美術研究科 前期修士課程 彫刻専攻 修了

2014 東京藝術大学 美術研究科 先端芸術表現専攻 研究生


主な展覧会

2014 Earth Art Project(ブーガ・レー/インド ラダック)

2015 アーツ・チャレンジ(愛知芸術文化センター/愛知)

2016 Summer 2016(gallery A-zone/岡山)

2016 天プラ・セレクションVol.73「藤井龍展 For( Your / His / Her / My )Eyes Only」(岡山県天神山文化プラザ)

2016 場所の目録(宮本ビル/愛知)


主な賞歴

2015 JAPAN PHOTO AWARD


藤井 龍 WEBサイト

出品一覧

タイトル|素材/技法|制作年 selves|パフォーマンス、映像、台本(即興で行われたパフォーマンスの内容を記録したもの)|2016

Private Collection|写真|2015・2016


 

サイト訪問者からの連絡受付

事務局経由で受け付ける




 

本記事は、平成28年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.73 藤井龍展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。


発行:岡山県天神山文化プラザ

発行日:平成29年1月31日

印刷:株式会社 三浦印刷所

編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]

デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]

撮影:加賀雅俊[べあもん]

照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]

 

<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>


平成28年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集

岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2016年4月12日〜2017年4月2日の期間に開催された5人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。


<目次>

  • 眞嶋 青 展|museum|天プラ・セレクションVol.72

  • 藤井 龍 展|For( Your/His/Her/My)Eyes Only|天プラ・セレクションVol.73

  • 妹尾 佑介 展|VIVID!|天プラ・セレクションVol.74

  • 有松啓介ガラス作品展|ガラスでしりとり遊び|天プラ・セレクションVol.75

  • 安中 仁美 展|ささやかな備忘録|天プラ・セレクションVol.76


カラー44ページ

税込1,000円


※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)


お問い合せ

〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ

TEL 086-226-5005

FAX 086-226-5008

メール tenplaza@o-bunren.jp

受付時間 9:00~18:00

休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)

 

「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。

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