丸山智代展|私の秘密の住人たち|天プラ・セレクションVol.67

更新日:7月6日



銅版画の魅力は、まるで錬金術師のように、色々な道具を使い、長い時間をかけて、ただの銅の板を「版」に変えていく工程にあると思う。直接ビュランで彫ったり、針で傷をつけたり、または酸で腐蝕させたりしながら描き、刷り上がりをイメージしながら製版する。プレス機で紙にインクで絵は印刷され、そこではじめて描いた結果がわかる。一度ですべてが完成することはなく、試し刷りと加筆や修正を繰り返していく。


ビュランを使うエングレーヴィング技法はもっとも忍耐を必要とする古典技法だが、それゆえに線は明確で美しいと思う。また、試し刷りを再構築してコラージュ作品にすることで美しい形を生み出し、その新しい絵になったものを版に彫って再び版画に戻していけることも版画だからこそのおもしろさだと思う。


そうやって、常に自分の表現したいことを考え、創造しながら版に向き合い彫っていくことが、今後も私の世界を深めていく。


丸山 智代



私のような門外漢からすると、銅版画は油絵と違って、色々な面で制約を受ける表現様式に思える。逆にそれがある種の緊張感や閉塞感を生み、秘密めいた魅力を醸し出すのではないだろうか。私も何点かの銅版画をコレクションしているが、その一部を書斎に飾っているのは、日中でもほの暗い書斎の雰囲気とモノクロームの銅版画が似合うからである。今回、丸山展の会場も全体をやや暗くし、作品にスポットライトを当てて、秘密めいた雰囲気を演出していた。もっともこの演出は、作品に魅力がないと生きてこないのは、言うまでもない。はたして丸山の作品は、その期待に応えていたように思う。


2000年代の旧作(エッチング)から、2010年代の近作・新作(エングレーヴィング+コラージュ、素描)まで24点が並んでいたが、空間を活かした会場構成は、ゆったりと見るのに適していた。メインは50号の《束の間の休息》で、19世紀末のファムファタルを思い出させる眼が妖しげな女性が、座って振り向いている。このキャラクターに到達したことで、近年の丸山のステップアップが図られたのだろう。向かい合っていた《気配》と《予感》を見て、その印象を強くした。このキャラクターは、我々の世代ではウィーン幻想派を思い出させるが、丸山自身はマンガ家の松本大洋氏も好きということなので、その辺りからの影響もあるのかもしれない。いずれにせよ、そのキャラクターを活かす方法として、丸山がコラージュを試みていることは興味深い。このコラージュは、自作の破壊から創造につなげる行為で、結果として画面に不思議な生命感と空間感が生まれたように思う。これはパソコンの画面上での構成からは生まれ得ない。あくまで手作業から生まれる裁断の切り口と紙の厚さがもたらす効果ではないだろうか。同じ意味で《ふたつの物語》の2枚の画面を赤いひもでつなげる趣向も面白い。強いて言えば、今後女性の手の表現に洗練が加わったならば、画面の妖艶な雰囲気により磨きがかかるのではないだろうか。


天プラ・セレクション推薦委員

画家、岡山大学大学院 教授

泉谷 淑夫


岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.67 丸山智代展 私の秘密の住人たち

[会期]2015年8月11日(火)〜16日(日)

[会場]岡山県天神山文化プラザ 第4展示室


丸山 智代

1976 岡山県生まれ

1999 愛知教育大学 教育学部美術科 卒業

2000 岡山大学 教育学部美術科研究生 修了


現在 総社市在住


主な展覧会

2008 個展「密やかな視線」(うずらギャラリー/京部)

2009 個展「The Regard」(スペースほづみ/岡山)

2011 個展 (アートガーデン/岡山)

2013 個展「秘密の声が聞こえる」(川埜龍三オフィシャルギャラリー「ラガルト」/倉敷)

2014 二人展「額司游游雅 宮井譲×丸山智代」(GALLERY GLOSS&COFFEE/岡山)

2015 天プラ・セレクションVol.67「丸山智代展 私の秘密の住人たち」(岡山県天神山文化プラザ)


出品一覧

タイトル|素材/技法/形状|サイズ(cm)|制作年 束の間の休息|銅版画/コラージュ|116.7×91|2015

予感|銅版画/コラージュ|30×60|2015

気配|銅版画/コラージュ|30×60|2015

運命|銅版画/コラージュ|33×42|2015

2つの物語|銅版画/コラージュ|20×60|2014

ささやく声|銅版画/コラージュ|10×15|2014

地下の音Ⅲ|銅版画/エングレーヴィング|29.5×19.5|2015

果実の声Ⅲ|銅版画/エングレーヴィング|26×22|2015

秘密の声|銅版画/エングレーヴィング|36×20|2013

左女(蕾)|銅版画/ドライポイント|53×35.5|2007

右女(開花)|銅版画/ドライポイント|53×35.5|2007

巡る|銅版画/エッチング|17.5×11.5|2015

女の子|銅版画/エッチング|15×9.5|2015

偉大な治療|銅版画/エッチング|35.5×53|2003

埋める|銅版画/エッチング|25×20|2002

コロモⅠ|銅版画/エッチング|11×7|2002

コロモⅡ|銅版画/エッチング|14×7|2002

待ちぼうけ|銅版画/エッチング|26.5×16.5|2001

向かい風|銅版画/エッチング、ドライポイント|15.5×11|2013

束の間に…|鉛筆画|37×25|2015

座る女|鉛筆画|26×19|2008

束の間のための…(左側)|ペン、インク/ドローイング|30×110|2015

束の間のための…(右側)|ペン、インク/ドローイング|30×110|2015

足音|鉛筆、コンテ/ドローイング|30×110|2013

想う|ドローイング、コラージュ|53×35.5|2008

 

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本記事は、平成27年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.67 丸山智代展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。


発行:岡山県天神山文化プラザ

発行日:平成27年10月31日

印刷:株式会社 三浦印刷所

編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]

デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]

撮影:加賀雅俊[べあもん]

照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]

 

<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>


平成27年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集

岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2015年8月4日〜2016年2月7日の期間に開催された6人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。


<目次>

  • カスパー・シュワーベ展|ars geometrica|天プラ・セレクションVol.66

  • 丸山智代展|私の秘密の住人たち|天プラ・セレクションVol.67

  • 吉行鮎子展|エモーションが止まらない|天プラ・セレクションVol.68

  • 細見博子展|蝿女|天プラ・セレクションVol.69

  • 山本哲也展|袖は襟で襟はなくないものはある|天プラ・セレクションVol.70

  • 島田悠美子展|増殖する記憶 ―目に見えない生命のかたち―|天プラ・セレクションVol.71


カラー52ページ

税込1,000円


※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)


お問い合せ

〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ

TEL 086-226-5005

FAX 086-226-5008

メール tenplaza@o-bunren.jp

受付時間 9:00~18:00

休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)

 

「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。