細胞のDNAに記録された遺伝情報は、複製されて子孫に伝えられ、生物は進化してきました。DNAの複製では、ほんのわずかな違いが万人に日々生じているそうです。もしDNA複製がコンピューターのように確実に繰り返されていれば、個性は生まれず、生物の多様化も起こらなかったのかもしれません。それは、変化する環境に対応するために進化や分化を促すように組み込まれたプログラムなのでしょうか。ほんの僅かな複製ミスの集積で生じてきた「違い」が、欲望、愛情、好奇心、嫉妬、憎しみ、創造、争いなど、あらゆる事の大きな要因になっているように感じられるのです。
※ 展覧会タイトル中の展翅(てんし)とは、標本にするため、昆虫などの翅(はね)をひろげること。
藤原裕策
240枚の色とりどりのデカルコマニーが、長短の壁面を埋め尽くしている。遠目には、無数の天使が翼を広げてさざめいているかのようである。近くから一枚一枚を見ると、頭蓋骨、骨盤、蝶、顔など、見る人によって様々な形に見える。その向かい側の壁面に展示されているモノクロ作品6枚は、寡黙に何かを訴えかける。紐にインクをつけて転写したモノタイプのそれらの形状は、顕微鏡から覗いた染色体のようにも見える。
デカルコマニー、モノタイプ、いずれも一方からもう一方に転写するもの。作品において、コピーする過程で元の形状が微妙に変化することと、生物の細胞は複製の際、遺伝子の微妙な複製ミスを起こしていることとが、重ね合わされているという。
私たちの細胞は毎日少しずつ死に、少しずつ蘇る。その際少しずつ、変化している。私たちの意図を超えた、DNAのレベルで。イエスはゴルゴタの丘で死に、蘇ることで永遠の存在になったが、私たちは日々死を経験していても、自らの神秘には気づかない。
藤原はタブローにおいては、予め塗り重ねた色を彫り出す手法を取っており、本展のデカルコマニー同様、色彩とイメージにおいて豊穣であり、かつ不思議な静けさと生命力を感じさせる。それは制作において無から有を創造するのでなく、すでに存在しているが隠れているものを明らかにしようという藤原のスタンスが、生命の神秘に触れようと顕微鏡を覗く科学者のスタンスに、どこか似ているからかもしれない。
天プラ・セレクション推薦委員
倉敷市立美術館学芸員 佐々木 千恵
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.59 藤原裕策展 ゴルゴダ―展翅のささやき―
[会期]2014年4月15日(火)〜20日(日)
[会場]岡山県天神山文化プラザ 第3展示室
藤原 裕策
1968 岡山県生まれ
1993 東京藝術大学 美術学部油画専攻 卒業
1995 東京藝術大学 美術学部油画専攻修士課程 修了
現在 倉敷市在住
個展
2010 The Shadow of Dancing(第一生命南ギャラリー/東京)
2013 Sculpicture Universe(Ohshima Fine Art/東京)
2014 天プラ・セレクションVol.59「藤原裕策展 ゴルゴダ―展翅のささやき―」
(岡山県天神山文化プラザ)
グループ展
2003 Destination Drawing(イギリス、オーストラリア)
2004 日本現代美術展(ブダペスト・ハンガリー)
2005 国際現代美術展(ザナパザル美術館/ウランバートル・モンゴル)
2006 2人展「Cross The Heaven's River」(ブリストル・イギリス)
2008 VOCA ―Vision of Contemporary Art― (上野の森美術館/東京)
2009 共鳴する美術 2009―表現への挑戦―(倉敷市立美術館 /岡山)
2009 ERROR3(バルセロナ・スペイン、ジャイプール・インド)
2012 El vacio y el paisaje (Galeria AP/ハラパ・メキシコ)
2012 日本×カナダ現代美術展 (バンクーバー・カナダ)
2013 土湯アラフドアートアニュアル 2013 (しゃくなげ荘/福島)
2014 「Los contemporaneos/asentamiento y deriva」(Museo de Arte Contemporaneo Alfredo Zalce/メキシコ)
その他個展・グループ展多数
藤原 裕策 WEBサイト
出品一覧
タイトル|素材/技法/形状|サイズ(cm)|制作年 Calvary| 紙、アクリル/デカルコマニー|42×60|2014
Calvary| 紙、アクリル/デカルコマニー|42×60|2014
The land of shadow|板に彩色(アクリル)と彫り|175×274|2010
Reflections of shadows|板に彩色(アクリル)と彫り|84×59|2010
Whirlpool|板に彩色(アクリル)と彫り|30×30|2011
ゴルゴダ ―展翅のささやき―|インスタレーション
紙、アクリル、ペン/デカルコマニー|42×60・240点|2014
紙、アクリル/デカルコマニー(モノタイプ) 59.4×84.1・6点 |2014
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本記事は、平成26年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.59 藤原裕策展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行:岡山県天神山文化プラザ
発行日:平成27年3月31日
印刷:株式会社 三浦印刷所
編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]
デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]
撮影:加賀雅俊[べあもん]
照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
平成26年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2014年4月15日〜2015年3月29日の期間に開催された7人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。
<目次>
藤原裕策展|ゴルゴダ ―展翅のささやき―|天プラ・セレクションVol.59
加藤晋平 写真展|家族のカタチ2|天プラ・セレクションVol.60
胡桃澤千晶展|かげろうエレジー|天プラ・セレクションVol.61
真部剛一展|虚実皮膜|天プラ・セレクションVol.62
宮崎政史展|天プラ・セレクションVol.63
片山康之展|完成形の可塑性能|天プラ・セレクションVol.64
三宅良史展|日本画×インスタレーション|天プラ・セレクションVol.65
カラー60ページ
税込1,000円
※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。
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