版画、平面作品を制作するときに心の奥に出て来る立体と言うか、影を持って成立している三次元のイメージの断片を拾い集め、それをエッチングプレス機でペシャンと圧力をかけ平面へと展開している。
今回は、そのイメージをもう一度膨らませて一つの空間にそろえて壮大な平面を作ってみること、そして、色と色が隣り合い混ざり合うことでどのような視覚作用が生まれるかということを、自身に問うた試みであった。
私が展覧会をしたこの週は、奇しくも一年を通じて一番暑い週であった。ギャラリースペースの高い空間をたおやかに揺れる球体で、少しでも涼しさを感じていただけたなら有り難いと思っている。
岡村勇佑
空と海はなぜ青いのか。太陽光の中の青い光が、空では空気中の気体分子に、海では水中の微生物にあたって散乱するためである。空と海の色はうつろいやすく、だからこそ見あきることがない。
岡村は、刻々変わる空や海などの自然の中の色を平面に定着させたいと、一貫して色に強い関心を持ち、銅版画の手法にこだわって制作してきた。今回の展示において岡村は、平面作品に加えて、大気の色を知覚させてくれる分子をイメージした球体149個を、天井と床面に設置し、色と色が関わりあうことで、どのように見え方が変わるかという“実験”を行った。
空と海に見出される色を刷った紙が貼られた球体には、一つとして同じ色のものがない。それらは自然界の中の無限の色、身体の器官を通して初めて色として認識される光を紙の上に「物質化」しようという、岡村の尽きせぬ探究心を反映しているようである。
今回の制作にあたり、岡村はガリレオ・ガリレイからインスピレーションを得たという。だが色をめぐる岡村の実験は、この天文学・物理学の父よりもむしろ、ルネサンス期の錬金術師、パラケルススを連想させる。版画家が見出すのは自然界における法則ではない。自然の探究と実験を通して生成される、作品という黄金なのである。
倉敷市立美術館学芸員/天プラ・セレクション推薦委員 佐々木千恵
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.52 岡村勇佑展 空の青さと海の青さへ
[会期]2013年8月6日(火)〜8月11日(日)
[会場]岡山県天神山文化プラザ 第3展示室
岡村 勇佑
1979 岡山県倉敷市生まれ
2006 倉敷芸術科学大学大学院博士(後期)課程 高橋秀・中西夏之・田中孝教室修了
2008 第2回秀桜基金留学賞受賞
2008 イタリア・ローマ滞在(〜'09年)
現在 倉敷市在住
個展
2003 ―地下水脈―(田島美術店 AOYAMA/東京)
2003 ―地下水脈―(スズカワ画廊/広島)
2006 飛散する星雲の船より(ギャラリーAO/神戸)
2007 黎明の器、月の花 (遊美工房/倉敷)
2008 音連れの庭から(アートガーデン/岡山)
2010 音連れの庭から2010(アートガーデン/岡山)
2010 雲のある木(淳風会健康管理センター/岡山)
2011 雲のある木2011(ギャラリーAO/神戸)
2012 花とイカロス(展ギャラリー/福山)
2013 花とイカロス2013(アートガーデン/岡山)
2013 花とイカロス2013(ギャラリー AO/神戸)
2013 天プラ・セレクション vol.52 「岡村勇佑展 空の青さと海の青さへ」(岡山県天神山文化プラザ/岡山)
岡村 勇佑 WEBサイト
出品一覧
タイトル|技法/素材|サイズ(cm/縦×横×奥行き)|制作年
イカロス - 風の航跡|銅版画(エッチング、アクアチント、メゾチント)|25.0×20.0|2012
イカロス - 翼のある舟|銅版画(アクアチント、スピットバイト、シンコレ)|25.0×20.0|2012
花の舟 - 植物Ⅰ|銅版画(エッチング、アクアチント)|25.0×20.0|2012
花の舟 - 植物Ⅱ|銅版画(エッチング、アクアチント、スピットバイト)|25.0×20.0|2012
イカロス 13-4|銅版画(エッチング、スピットバイト)|25.0×20.0|2013
花の舟 - オーロラの国へ XIII|銅版画(アクアチント)|25.0×20.0|2013
花の舟 - オーロラの国へ XIV|銅版画(ソフトグランドエッチング、スピットバイト、ドライポイント)|25.0×20.0|2013
花の舟 - 植物Ⅲ|銅版画(エッチング、アクアチント)|25.0×20.0|2013
花の舟 - 植物 IV-2|銅版画(エッチング、アクアチント)|25.0×20.0|2013
空の青さと海の青さ - 展示計画|銅版画(ソフトグランドエッチング、アクアチント、スピットバイト)|20.0×25.0|2013
花の舟 - オーロラの国へ V|銅版画(エッチング、アクアチント、シンコレ)|30.0×30.0|2012
花の舟 - オーロラの国へ VI|銅版画(アクアチント)|30.0×30.0|2012
花の舟 - オーロラの国へ VII|(エッチング、アクアチント、ソフトグランドエッチング、シンコレ)|30.0×30.0|2012
音連れの庭から - 山向こうの夕暮れ|銅版画(エッチング、アクアチント、シンコレ)|80.0×60.0|2010
音連れの庭から - 森の中の海|銅版画(エッチング、アクアチント、リフトグランドエッチング、シンコレ) |80.0×60.0|2010
音連れの庭から - 森への扉|銅版画(アクアチント)|90.0×60.0|2010
帆波の船|銅版画(エッチング、アクアチント)|90.0×60.0|2011
花の舟 - オーロラの国へ IX|銅版画(アクアチント、シンコレ)|60.0×90.0|2012
舟影とともに|銅版画(エッチング、アクアチント)|60.0×90.0|2012
舟影とともにⅡ|銅版画(エッチング、アクアチント、雁皮刷り)|60.0×90.0|2013
イカロス 13-1|銅版画(エッチング、アクアチント、スピットバイト)|90.0×60.0|2013
空の青さと海の青さ - 朝よ|銅版画(エッチング、アクアチント)|90.0×120.0|2013
空の青さと海の青さ - 風の花びら|銅版画(エッチング、アクアチント)|90.0×120.0|2013
空の青さと海の青さ - 波と花|銅版画(エッチング、アクアチント)|90.0×120.0|2013
空の青さと海の青さ - 波の窓|銅版画(エッチング、アクアチント)|90.0×120.0|2013
空の青さと海の青さ - 舟形に|銅版画(エッチング、アクアチント)|90.0×120.0|2013
空の青さと海の青さ - マルセイユ|銅版画(エッチング、アクアチント)|90.0×120.0|2013
空の青さと海の青さ|銅版画、球体|サイズ可変|2013
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本記事は、平成25年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行日:平成26年3月31日
発行:岡山県天神山文化プラザ
編集:福田淳子(岡山県天神山文化プラザ)
デザイン:安藤一生(一生堂)
撮影:池田理寛(D-76)
会場照明:池田正則(岡山県天神山文化プラザ)
印刷:株式会社 三浦印刷所
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
平成25年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2013年7月31日〜2014年3月30日の期間に開催された8人の個展の記録集として発行したものです。
<目次>
北川太郎 彫刻展|天プラ・セレクションVol.51
岡村勇佑展|空の青さと海の青さへ|天プラ・セレクションVol.52
近藤真生 映像展|Butterfly.f|天プラ・セレクションVol.53
山本誠展|実在と記憶|天プラ・セレクションVol.54
あだち幸 友禅画展|絹地に奏でるミクロコスモス―光曼荼羅|天プラ・セレクションVol.55
中山秀一展|記憶のレイヤード|天プラ・セレクションVol.56
榎真弓展|それらのあいだにも。|天プラ・セレクションVol.57
鳥越眞生也 作品展|あにまるまにあ|天プラ・セレクションVol.58
カラー48ページ
税込1,000円
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。
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